歯科NEWS

2011.03.02更新

高度経済成長が続き、人々の暮らしがどんどん豊かになっているベトナムでは、生活のさまざまな場面で変化が生じている。なかには「豊かさとはこんなところにも表れるのか」と感心する場面も少なくない。最近は歯の健康ブームが象徴的だ。

ベトナムでは肌の白さが美人の条件とされるように、白い色を何かとありがたがる傾向にある。だから、若い男女が白い歯にあこがれるのは、無理もない。オフィスでも昼休みとなると、若い従業員が洗面所に横一列で並び、一心不乱に歯を磨く。その光景は、体育会系の合宿生活を思い起こさせる。白く輝く歯をめざして、それはもう熱心だ。

◆医院の開業相次ぐ

ブームを当て込み、新たなビジネスが芽生えるのはいずこも同じ。歯の健康ブームにあやかろうと、事業に熱を上げているのがデンタルクリニック(歯科医院)だ。ホーチミン市内はデンタルクリニックの開業が相次ぐ。日本や韓国から最新の設備を取り入れて、健康的で白く美しい歯を求める中流階級以上の人々がやってくるのを待ち構える。虫歯の治療など一般的な歯科診療はもちろん、歯の矯正や漂白、クリーニングなど「美白」関連のニーズを満足させるのが腕の見せ所だ。

ホーチミン市内の2カ所でデンタルクリニックを開設しているニュー・ジェネレーション・デンタルクリニックでマーケティング業務を担当するズイ氏は「ベトナムの歯科治療は、この数年で確実に変化が起きている」ときっぱり言う。以前は、虫歯になって痛くてどうしようもなくなってから歯科に飛び込むのが大半だったが、いまは普段から歯の手入れに通うケースが若い人を中心に増えている。

通院者の年齢層は20代~50代が中心で、診療目的は大きく2つに分かれる。30代までは歯石除去や歯の検診のほか白い歯を求める人が多く、とくに妙齢の女性は歯のクリーニングによく訪れる。これに対して、40代以降はほとんどが虫歯の治療だ。若い人ほど、異性の視線を意識して白く美しい歯を望む傾向が見て取れる。

◆メーカーの戦略奏功

歯の健康がブーム現象にまでなったのは、歯ブラシや歯磨き粉のメーカーの事業戦略によるところが大きい。各社は、学生向けに無料の歯科検診を行ったり、学校などで歯の大切さを説く講習会を開いたりしている。歯ブラシや歯磨き粉の売れ行きを伸ばしたいためであることは言うまでもない。

戦略が功を奏して、歯磨き習慣が広まったのみならず、歯の健康と美白にまで人々の関心が向いて、デンタルクリニックも繁盛するようになったわけだ。

現代の若い男女は、自分が美しくなるためには出費を惜しまない傾向が国際的にうかがえる。ズイ氏によると、同デンタルクリニックの費用は、虫歯の治療が1カ所で約600円、歯のクリーニングが1回約600~800円、歯を白くするホワイトニングが約4400~6400円、歯の矯正が約11万~16万円、歯の抜けたあごに人工歯を埋め込むインプラントが約7万~10万円だ。

日本などから見ると格安料金に思われるだろうが、ホーチミン市でも平均年間所得が約2500米ドル(約20万4300円)のベトナムでは、ホワイトニングや矯正、インプラントに気軽に出せる金額ではない。それでも、同クリニックを訪れる人は、虫歯の治療が60%、ホワイトニングと歯石除去が30%、歯の矯正が10%という。ここにも、豊かなベトナムが映し出されている。

一方で、意外なニーズもある。2月初旬の旧正月前になると、米国、オーストラリア、フランスなど国外に在住するベトナム人(越僑)が帰省した際に、デンタルクリニックを訪れることが多くなってきた。先進国に比べると安く、最近はデンタルクリニックの技術や設備も向上していることが人気を集めている。

人口が約710万人のホーチミン市で開業しているデンタルクリニックはおよそ650カ所。1万人に1カ所の割合だ。歯科医院が過剰ともいわれる日本は、およそ1700人に1カ所だから大きな開きがある。ベトナムのデンタルクリニックは、まだ成長途上のようだ。(ベトナム進出コンサルティング会社ライビエン 桜場伸介)


投稿者: 藤村医院

side_inq.png